2024葛苧づくり終了
2024.7.26
本日、2024葛苧づくりシーズンの全ての工程が終了、あと1ヶ所もしかすると採りに行くかもしれないが遠方でほぼ興味本位の調査であるため、制作工程としての葛苧づくりは今日で終わりである。
札幌の葛の花は満開、少し気の早い自宅付近の葛などはもう花はほぼ散ってしまっている。葛の花は秋の七草の一つというのにまだ7月だ。北海道に夏はないのか。
年々葛の伸びる時期が遅くなっているような気がしている。今年などは長く太く丈夫な繊維を取るのに苦労した。シーズン初めには採れる葛がなくて絶望したし、これまでベストシーズンだと思っていた時期には良い蔓が全然なかった。最近になって、やっとぐんぐん伸び始めてきたのだが、蔓は硬いし花は咲くし根は出ているしで(こうした蔓は繊維採取には不向きだ)、まるで伸びると同時に冬支度を始めているようだった。ほんのここ1週間くらいの間の話である。雨が少なかったのが多少は影響しているかもしれないが、いつだったか、今年よりもずっとひどい大旱魃の年があり、しかしその時は今年のようなことは感じた記憶がない。他に例えば温暖化の影響であるならば、普通に考えると冬支度は遅くなるはずだが、どうもそうはなっていないようだ。芽吹きが早まっている気もしない。前述のように蔓が伸びる時期が遅くなっており、伸びると同時に花をつけたり根を出したりしている。とすると、葛苧づくりのための葛の蔓が採取できる時期が短くなっているということである。それを裏付けるかのように、以前〜ほんの5、6年前の話〜は葛苧づくりを終えるのが8月中旬であったのに(その頃はこんなに早く花をつけたり根を出したりしていなかったように思う)、ここ数年はどんどん前倒しになっていて、今年は少し粘ったが昨年などは7月21日に全ての工程を終了している。葛が花をつけ、根を出し、蔓は硬くなり、ムロづくりに必要なススキは穂を出し始め、天候が荒れがちになる。そうなるともう葛採りは終わりで、その時期がどんどん前倒しになっている、という訳だ。不思議なのだが私が葛採りを終えると本当に天気が途端荒れ出す。来週はずっと雨模様だ。
さて、毎年のこの「シーズン終了宣言」は、ただ自然の万物に感謝して終わるのだが、今年は長々と書いてしまった。何かが少しずつ変化している、しかし作業がほぼ習慣化してしまった自分は変われずにいる、その隔たりに翻弄された1ヶ月半だったように思え、そのことを記録しておきたいのかもしれない。何にしても20年もやっていれば変化するのは当然である。加えて、今年は新しく採取させてもらえる場所が増え、葛採りを通じて人との繋がりが広がった年でもあったが、それは同時に、人の営みとの兼ね合いの中で新しい葛と向き合い、葛採りの新しい動きと新しい仕組みの作り直しが必要ということでもあった。葛と、人と、自然と。それらの繋がりから自ずと生まれる制約を、より良い葛苧づくりへと繋げるためにはどうしたら良いのか?これまでの蓄積を見直しながら、改めて葛と微生物と、それを取り巻く全てに(人間も含めて)、真剣に向き合うこととなったシーズンだった。
今日、今年最後の葛洗いを終えた川で、今年も無事終わったなぁ、繊維が取れて良かったなぁ、ありがとうございます、そしてまた来年もよろしくお願いします、と手を合わせた時、なぜか涙が流れて、そんな、ここで泣くなんて何事かと不安にすらなったぐらいに訳が分からなかったのだが、長々と書いてしまったように、今シーズンは今までとは違うシーズンで、言葉になるものも、ならないものも、きっとたくさん受け取ったのだろう。
葛苧づくりは、人間のコントロールの外にある自然の流れに常に翻弄されながらも、そこにやや埋没する感覚があり自分も自然の循環の中の一つであると感じることができる。しかし人間ならではのエゴがそこに働くから、それとこれとの擦り合わせで各種の制約をすり抜けながら、なんとかかんとかやり抜く。楽しいとか苦しいとか大変だという感覚はほとんどない。やりたいからとか、好きだからとか、そんな感覚ももうどこかへ行ってしまった。ただ葛が生えてくるからやらずにはいられない、葛にやらされている感覚に近い。無心、忘我?妙な集中状態。一年のなかでもこの葛採りシーズンはどこか異世界だ。今年は6月17日から始めて、7月26日まで、ほぼ毎日採るか洗うかしていた。色々なドラマがあった。
だが最後の言葉はいつも同じである。
葛、草、水、土、微生物、太陽、大気、全てのものに、そして葛とススキの採集に特別なご配慮とご協力をくださった皆様に、心から感謝いたします。
今年も無事葛苧を作ることができました。
本当にありがとうございます。
葛苧づくりにおける様々なことについての詳細、雑感、技術的なことの記録などはnoteメンバーシップにて限定公開しております。ご興味のある方はご参加いただけますと幸いです。
コメントを送る
コメントはブログオーナーのみ閲覧できます