葛の採取で繋がるご縁
新しいブログの最初の記事は、葛を採らせてもらえるところを探す中で繋がったご縁について書こうと思う。お邪魔したのは2023年の残暑厳しい秋だったが、色々と衝撃が大きかったため、私の中での熟成期間が必要で、文章にまとめるのが年末ギリギリとなった。
場所は余市町。北海道の西のほうにある積丹半島の北側の付け根の海岸沿いに位置する町だ。日本人初の宇宙飛行士毛利衛さんの出身地であることから「宇宙記念館」があったり、ニッカウヰスキーの創業の地で蒸留所の建物が国指定重要文化財となっていたりするので、名前を聞いたことがある、なんとなく知っているという人も多いかもしれない。私は個人的には入り組んだ海岸沿いの景観が好きで、学生時代に良くドライブをした馴染み深い場所である。
葛の採取には色々と難がある(このことについては今回の話の主旨とズレるので、いずれきちんとまとめたいと思っている)。本当は自宅から徒歩または自転車で行ける距離にある場所で採取を完結したいのだが(これについてもまたいずれちゃんと書きたいと思っている)、ここ数年なんとなく少しずつ採りにくくなってきた。それで3年前から余市町にある 余市教育福祉村 でも毎年数回採らせてもらうようになっていたのだが、今回、巡り巡って同じ余市町の サニーサイドファーム さんと、 ランセッカ さんとのご縁が繋がり、来年から葛を採らせてもらえるようになった。
サニーサイドファームさんは果樹などを育てる農園、ランセッカさんはワイナリー。どちらも広大な畑を管理されていて、その脇に葛が盛大に生えている。良い繊維を取るには半栽培的な手入れが多少必要で、人の手が入らずに大いに繁殖してしまった葛の群生からは繊維になる蔓はほとんど取れない(ならば自分で土地を得て栽培すれば良いではないか?という意見もあろうが、それに関する考えもまたいつか別の記事に書きたいと思う)。従って、地主さんと直接お話ができて相談ができる場所で葛を採らせてもらえるというのはとても貴重で有り難く、札幌からは少々遠いことを考慮しても、来年は余市に行く回数を増やしてどうにか良い形で巡る採取の仕組みとバランスを整えたいと思っている。
ところで今回ご縁が繋がったお二人とは、全くの初対面ではなく、実は結構前からの知り合い、もしくは、私が一方的に結構知っていた方だったので、お会いできてとても嬉しかった。お仕事柄おおよそ想像はしていたがそれを遥かに上回る豪快さと繊細さでスケール感が桁違いだった。余市中に生えている見渡す限りの葛畑も相まって、お二人の佇まいと暮らしっぷり全てに圧倒されるばかりで写真を一枚も撮らなかった(写真に写すのが無意味に思えた)。そして後で振り返ると、そういえば「葛から糸を作って葛布を織っている」ことに対して何の反応もされなかった。
「自生する葛から糸を作って染めて織っている」と言うと大抵「大変な仕事だ」「根気が要る」「気が遠くなる」などと驚かれる。しかし、始めた当初は別としても今となってはやっている本人からすれば「風呂に入る」「服を着る」と同じレベル、ひょっとすると「食う・寝る」レベルと同じことで、暑かったり豪雨だったりして困ったなと思う時はたまにあるが全て仕方のない事だからその中で工夫をするしかなく大変だとか辛いとかいう感情はない。やりたくないことを強要されてやっているならばいざ知らず、自ら選んでやっているのだから大変も何もないのである。だから「大変な仕事」で「すごい」などと称賛されると違和感とむず痒さを感じるのだが、感覚は人によって違うし、商売的にはすごいと思ってもらえる方が良いのかななどという打算的なことも考えてしまって、否定もせず肯定もせず何となくうやむやにしてしまう。しかしこのお二人の前では、そういえばそんなことを考えなかった。日々土と植物、微生物などと向き合いそれを生業にしている方達だ、葛布を織ることも(葛布の深い歴史とそれを繋いできた人々の営みの蓄積には深い敬意を持っているが今はそれはそれとして置いておいて)何も特別なことではなく「ごく普通のこと」として捉えていらっしゃるのだろう、というよりも、当たり前すぎて意識すらしていなかったかもしれない。
人間の都合とは別次元で動く自然の営みの中にあるものを人間が利用できるように人間の都合をどうにか合わせて捉えて加工する、言わば自然界と人間界を繋ぐこうした営みはどんなに世の中が変わろうとも人間が生身の生き物である以上普遍だと思うのだが、ほとんどの人が想像が出来なくなりつつある、または、自分がコントロール出来ないものを相手にすることもごく少なくなってきているのだろう(だから「大変だ」「気が遠くなる」と言う感想になるのだと思う)ことを考えると、そうとも言い切れないのか。だとすると、その先の人類はどういう道を歩むのだろう。かく言う私も織りを始めるより前は糸の成り立ちすら知らなかったし想像しようとも思わなかった。
ともかく、このようにして古くからのご縁が繋がったこと、そして豪快で繊細で暖かく真摯なお人柄のお二人の管理する畑で葛を採らせてもらえること、さらには、顔を知っている人の作る美味しい果物やワインを味わうことができることが嬉しく、葛の採取とそのサイクル、自分の動き方が来年以降どう変わるのか?いずれにしても良いものづくりに繋げていきたいと思うのはいつものことだが、とりわけそういう気持ちになった。
来年からどうぞよろしくお願いいたします。
🫐サニーサイドファームさん
🍷ランセッカさん
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