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Sessou-no-ki : Sessou’s Blog
染織家・葛布帯作家 雪草のブログ

白雲岳の永久凍土

地図はYAMAPより

2024.9.3-4

1日目 大雪高原温泉〜緑岳〜白雲岳避難小屋テント場

2日目 テント場〜白雲岳〜緑岳〜大雪高原温泉

かねてよりの夢であった白雲岳避難小屋でのテント泊山行。葛採りシーズンが終わり全精力を織りと帯づくりに注ぐ前に、どうしても山へは行かねばならない。私にとって山は創作の源であり、コントロールの効かない厳しくも大らかな自然の中に身を置き自分自身をリセットし俯瞰する大切な場所なのだ・・・ハイテクノロジーな道具と衣服に包まれて、ではあるが。

今回の山行で思い出深い景色の一つ。白雲岳中腹の避難小屋の赤と手前の紅葉した高山植物の赤が同じ色で、雪渓の白と緑と空の青。本当に美しい風景だった。

1日目、大雪高原温泉・緑岳登山口から入り、緑岳山頂を経由して白雲岳避難小屋へ向かう。テント泊山行は昨年初チャレンジでまだ初心者だ。水や食料を入れておよそ11キロ〜12キロくらいの装備を背負って片道4時間の距離を歩くのは初めてなので少々不安がある。しかし挑戦しないことには先がない。登山に慣れた人ならば何てことないルートなのだろうけれど、私にとっては結構な冒険だ。ヒグマの目撃情報の多いエリアでもあることも相まって、ただひたすら一歩一歩、緊張しながら歩いた。 

中腹、平坦な地形から、最初の目的地の緑岳が正面に

自宅を出発するのが予定より遅くなった。日が高くなってから登り始めることがあまりないから、何となく気が急く。それにすでにお昼近くでこんなに天気が良いというのに先行者3名、途中すれ違ったのは2名。混みすぎも嫌だが初めての山で人が少なすぎるのも少々心細い。早く避難小屋に着きたい・・・の思いから、なんとなく急ぎ足になり、緑岳山頂手前のガレ場で完全にバテてしまった。あとで考えると水分とエネルギーの補給が疎かであったのだが、この時点ではこの重い荷物では2時間が限界だったのかもしれないと、自分の体力に自信が持てなくなっていた。

高根が原の先にトムラウシが見える

しかしそんな疲れを癒してくれたのは雲ひとつない晴天と絶景、そして時折出会う他の登山者の方々との会話だった。気分によって体力は変わるを実感する。

登頂。ここまで来ればあとは比較的平坦&下りなので、一安心だ。

緑岳と赤岳をつなぐ稜線から一旦下って避難小屋方面へ向かう途中に沼がある。写真の右側には、まだ比較的大きな雪渓が残っていて、その端が水に浸かっているが溶けていない。きっと雪が降るまで溶けないのだろう。一帯の地形は非常に特殊で、近辺の地中には永久凍土のある可能性が高いことを後に知る。実際、こんなところに雪渓が残っていること、そして水に浸かっている雪が溶けていないことがとても不思議に思えた。

白雲岳避難小屋そばのテント場。奥が白雲岳。上には広い火口原がある(単なる広い野っ原と思っていた場所が火口だったということも後に知った)

風が強くてテントの設営に少々苦労したが、何はともあれホッとする。昨年はこのテント場の周りにヒグマの親子が居付き閉鎖となった。泊まれること自体が貴重に思えた。

ヒグマについては色々と思うところがあって過去に記事を書いている。

いつも謙虚に争いを避け、ひっそりと山に暮らし、その牙は大事な時にしか使わない。時にユニークな表情や動きを見せるヒグマが私は大好きだ。その存在を感じながら暮らす、そのことは大変尊い。だが会いたくはない。

陽の沈む方向、避難小屋脇より

テント場や小屋周りで他の登山者の方々と会話を交わす。みなさんそれぞれにツワモノ。ここまで来て、へこたれて弱気になっている場合じゃない。疲れすぎて諦めかけていた翌朝の白雲岳、やっぱり行こうかという気持ちになる。

早朝、地球の影

というわけで、5:20頃、出発。

余談だが、上の写真中央、蝦夷鹿の白いお尻が見えているのがわかるだろうか。写真だと他の岩と紛れてよく分からないが、肉眼だと蝦夷鹿だけとても大きく目立って見えていた。動いていたからというのもあるが、人間の目は自分にとって異質なものや重要なものを大きく際立たせる機能があるのではないかと思う。しかし実際、そばを通り過ぎた時、鹿はとてつもなく大きく、私の背丈ははるかに超えていた。

手稲の鹿は人間を見るとものすごく遠くてもすぐに逃げていく。しかしこの鹿は全く逃げず、目が合っているのにモグモグと咀嚼している。こんなに至近距離で鹿を見たのは初めてだった。待てども待てども食事が終わる気配がない。熊だったら待つしかないのだろうけれど、鹿だから…の油断は禁物だろうか?刺激しないように、そっと側を通り抜ける。結構怖い。大きな角のある雄鹿だった。ツノが当たったりしたら大怪我をすると思った。

さて、やっと「永久凍土」の話だ。

この写真は山頂手前、広い草原のような場所を登山道が突っ切る。大好きな場所だ。この左側に草原が広がるのだが、これが白雲岳の火口原だったのだ。

その風景。もちろん全景は撮れていない。でもその広大さの雰囲気が伝わるだろうか。

この場所は毎年5月中旬頃に湖が出現する。「火口湖」、その存在期間はおよそ1週間ほどで、あっという間に消えてしまうので「幻の湖」として有名だが、なぜあっという間に消滅してしまうのか?それは地中の氷の融解によるもので、そこには永久凍土が存在していというのだ。

(参考)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajg/2016a/0/2016a_100169/_pdf/-char/ja (論文)

https://www.hokkaidogeog.org/pub/gs/gs69/gs69_05.pdf (論文)

https://www.hakuundake.jp/白雲岳避難小屋について (白雲岳避難小屋HP)

※「白雲岳 幻の湖」などと検索すると、動画なども出てきます。

ちょっと想像がつかないが、この山の麓に流れる川には石狩川という名前がついている。そう石狩湾に注ぐ、あの石狩川だ。ここに降った雨や雪が永久凍土を通して山に染み込み川となって流れ石狩川に注ぐ。信じられない話だが、我が家の近くを通る石狩川には、ここの水が流れ着いているのだ。

今回の山行は私の中で「テント泊&片道4時間の距離初体験&ヒグマとの距離感が近いエリアである」の比重が大きすぎ、他のことを考える余裕がなかった。しかし後にこの辺りの地形の面白さを知り、少々後悔する。もう少し事前に調べていけば良かった。

と思っていたら、昨年の私はそれをうっすら知っていたようだ。

なんということだ。自分の体力のみならず、記憶力も信用できなくなってきた。両方とも、これから鍛えることにしよう・・・。

大雪山系の山々の生い立ちも少しずつ知っていきたい。

さて、下山。

クモイリンドウの花期には間に合わないと思っていたら、枯れる寸前の花に会えた。この色合いも素敵だ。いつか帯にしたいと思っている花の一つだから、こんな表情も見られて感激。

高根が原へ続く道と緑岳へ向かう道の分岐。名残惜しい。

こちらは麓の噴気孔 

上は冷たく下は熱い。なんという場所なのだろう。

Thank you!
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