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Sessou-no-ki : Sessou’s Blog
染織家・葛布帯作家 雪草のブログ

技術のルーツを明らかにする

私が初めて葛布を習いに行ったのは2003年、静岡県にある大井川葛布、その時のことは本当によく覚えていて今も時々思い出す。今だったらSNSやblogなどに詳細に記録を残しておくのだろうけれど、当時はそうした類のものはとても少なく(ホームページを作る以外には「掲示板」や「はてなブログ」が主流だったろうか)全てが自分だけの時間で没頭する、思い起こせばそれはとても心地良いものだったが、詳細な記録を残そうと思えばできたはずなので頭の中だけの記憶なのは少し残念だ。

静岡へ習いに行った経緯やその時の感情は既に書いているのでそちらをご覧いただくとして(ここ→)、その時に親方から「作品を発表する時には大井川葛布に言及してほしい、それはルーツを明らかにするためだ」と伝えられた。それを発端として「ルーツを大事に明らかにする」ことについて、今の私の考えを書く。

当時の私は「ルーツを明らかにする」ということが今ひとつピンと来なかった。しかし「布」が土地や暮らしと強烈に結びついていることを旅中ひしひしと感じていたので、この言葉の裏には並々ならぬ何かしらがあるに違いないということは受け取った。だからその後の制作活動の中、作品発表時に技術の由来に言及することはもちろん、技術を人に伝える時には「どこまでが習ったことでどこからが自分流か」を明らかにするように努めてきた。ついでに言うと「織り」の技術も同様に「どこで習得したのか」を明記するのが本当は筋なのだろうが、私の場合はややこしく複雑になってしまうので避けている。ただ言えるのは様々な人との出会いや差し伸べられた手〜各方面の方々のアドバイス〜の繋ぎ合わせによって全体が作られているということであり、私がこうして葛布を織ることができているご縁と皆様のご好意には本当に感謝している。

さて、話がズレてきたついでにもう少しズレるが、私は数年前まで数年間、通信制の芸術大学に在学して芸術の概論を学んでいた。そこで初めに教わったのは、何かを述べ論じる時にはその根拠と出典を明記することと、他人の意見(またはそれまでの研究の蓄積)と自分の見解を明確に分けることの重要性、そしてそれが脈々と繋がれてきた、これからも繋がれるであろう、「学問」の礎である、ということだった。私はこのことに少なからず感銘を受けた。なぜならばそれまでの私はそのような事をあまり考えたことがなかったから、見えていなかったものが急に見え出して新鮮だったし、なるほどこれは葛布の技術のルーツを明らかにすることにも通じるのだ、とも思ったからだ。

「布」を表す英語「テキスタイル(textile)」の語源は「テキスト(text)」である。布は出自や家柄を表したり代々受け継ぐ重要な情報を載せたりして伝達の役目を果たしてきた歴史があることを考えれば納得がいく。「布を織る」ということは人類が積み重ねてきたものに自分の解釈を載せて受け継ぐ行為であり、それは学問と論術の関係と似ていて布はまさに論文(text)なのだなと思った。「織る」は暮らしの中の宗教的神話的行為でもあると、そういえば最近読んだ本に書かれていた(※)。それらを考えると、この先どんなにテクノロジーが発展しても、およそ一万年繋いできたこの技術を人類は最後まで絶対に手放さないだろう、そのようなものに携わり、人から人への伝達に微力ながらも貢献できるのだとしたら、本当に幸せだと思う。

話を元に戻して「技術のルーツを明らかにする」である。上に書いたように、布、とくに自然布と呼ばれる類の布は、「その土地とそこでの暮らし」に本来は強烈に結びついている。しかし求めればどこにいても情報を得られる現代では、欲しい人が欲しいままに貪り、放っておけば混沌とし雑多となるだろう。それはそれで良いかもしれない。しかしそんなものづくりの世界は先人と技術へのリスペクトに欠け、薄っぺらで、何だかつまらないしロマンもないと私は思う。特に葛布は日本各地で織られていた歴史と地域性があり、人々がその土地で何を大事に何を優先してきたのか?の具現でもあり精神性の宿るものでもある訳なので、ルーツを明らかにすることを、やはり守りたい。静岡に伝わる方法に倣いながらも静岡から離れ北海道で葛布を織るからには、それらを歴史の情報として技術と布に載せたものを織りたい。結果、オリジナル(静岡の葛布)に触れたいという気持ちを見る人に起こさせるような織布に仕上げることができたなら、とても嬉しい。

「マントル」地球の営みと生物の営みのフラクタル / 葛布八寸帯地 部分


(※)木村武史著『北米先住民族の宗教と神話の世界』、筑波大学出版会、2022、p146-170 ディネ(ナヴァホ)とホピにおける「思う(創る)女性(蜘蛛女[蜘蛛婆])」と織物の起源

(加筆修正履歴)

2024.2.17 一部加筆

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